名古屋高等裁判所 昭和30年(う)600号 判決
原判決第二事実即ち被告人に対する恐喝被告事件の犯罪事実は、原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めることができる。被告人は、原審相被告人森正道と近藤栄治との喧嘩の仲裁をしたのであつて、恐喝の犯意はなかつたと主張しているが、原判決記載の証拠によれば、森正道と近藤栄治とは、本件犯行日の前日喧嘩し、森は近藤から暴行を受けたので、森はこれを快とせず仕返ししようと思つて、本件犯行日の夕方、近藤方を訪ねて行くことになつたのであるが、被告人は、森と近藤とが再び喧嘩することを心配し、森と同行し、近藤方の前の道路上で、近藤に出会つたところ、森は、近藤に対し、原判示のような啖呵を切つて、匕首を突きつけたので、被告人は、近藤に対し、「森が怒つていてただではすまぬから金を出せ」との趣旨を申し向け、そのため、近藤は姉近藤典子を通じて現金五千円を出し、被告人と森とは、その金で飲酒遊興したことが認められる。右の事実から見れば、被告人は、森と近藤との喧嘩の仲裁をする意思はあつたかも知れぬが、近藤に対し、金を要求し、若し近藤がこれを拒絶すれば、森からどんな危害を加えられるかも知れぬと感得させて畏怖せしめ、その結果、近藤から姉を通じ現金五千円を受取つたことが明らかであるから、右五千円の授受は、喧嘩を未然に防止したとはいえ、適法のものと謂うことはできない。金を出せば喧嘩をしないが、そうでなければ喧嘩をして危害を加えると申し向けることは、適法な喧嘩の仲裁でなく、恐喝罪の脅迫手段であることは疑がない。従つて、原審が被告人の行為を恐喝と認定したのは正当で、論旨は、理由がない。
(裁判長判事 赤間鎮雄 判事 大友要助 判事 柳沢節夫)